2019年07月13日

殺虫剤の選択性

対象とする害虫に対して高い毒性(殺虫活性)を示すが、人畜を含む哺乳動物や有用昆虫など非標的生物に対して低毒性の殺虫剤のことを「選択性殺虫剤」といいます。」(農研機構「農業技術事典」より)


対象害虫が広いものを「選択性が低い」、少ないものを「選択性が高い」といいます。


昔は害虫益虫の区別なく、日本を爆撃した米軍よろしく無差別攻撃する殺虫剤がほとんどだったのですが、現在では特定の害虫を狙う選択性殺虫剤が増えています


ときどき「農薬の毒性はどんどん強くなっている」という被害妄想的記述を目にしますが、実際には選択性が高まることで、人畜や益虫への毒性はどんどん低減しています。


BTはバチルス・チューリンゲンシスという細胞を利用した薬剤で、摂取すると胃の中で殺虫性のたんぱく質を作りだして、虫を死にいたらしめますが、アルカリ性の消化液でしか形成されないため、胃液が酸性の哺乳類には効きません


IGRは脱皮を阻害したり、逆に虫を混乱させて脱皮を無理やり促進したりするクスリなので、脱皮をしないハチには効果がありません


私たちはダニを退治するために殺ダニ剤を使います。つまりダニは普通の殺虫剤では死なないということです。


うちでは前回の防除で、ネオニコ系殺虫剤の代わりに有機リン系殺虫剤のダイアジノンを使いました。ダイアジノンはシンクイガ(の幼虫)やワタムシ・一部のカイガラムシにはよく効きますが、アブラムシには効果が劣るとされています。


実際、散布した後でもアブラムシはわんさか・・・


ガの幼虫を殺せる薬でも、あんな小さなアブラムシを殺すことはできないのです。こんな代物がどうしたら人間に悪影響を及ぼすのか聞きたいくらいです。


選択性とはちょっと違いますが、虫にはよく効くけど、人体毒性は低い、という殺虫剤もあります。

戦後、日本でもよく使われたDDTもそうです。


あの時代、DDTは世界中でびっくりするくらい大量に使われたらしいですが(ちなみにDDTの殺虫効果を発見した博士はマラリア撲滅の功績によりノーベル賞を受賞)、なぜそんなに大量に使われたのかというと、人体毒性が(少なくとも急性毒性は)低かったからです。


私は「DDT世代」ではないので話でしか知りませんが、戦後しばらくの間、人々はノミやシラミを退治するためにDDTを使いまくりました。頭からふりかけたり背中に入れたり、布団にまいたり、もうやりたい放題。今考えるとゾッとしますが、当時はそれによる中毒例はほとんどなかったようです。

DDTが製造中止になったのはその環境中に長くとどまって分解されにくい性質ゆえでした。


ちなみにプロレス技のDDT(脇に相手の頭を抱え込んで後ろへ倒れこみ、頭部をリングに叩きつける技)の名称はこの殺虫剤に由来しています。

なかなかユーモラス。


posted by 農天気 at 20:48| Comment(0) | よもやま話

2019年07月06日

似て非なるもの

先日のブログで、スピノシン系殺虫剤「ディアナ」の作用機構が「ネオニコチノイド系殺虫剤」とほぼ同じ、ということに驚いたということを書きました。


農薬屋さんに聞いたところ、「いやネオニコとは違う」という答えでした。


どういう風に違うのか知りたいのですが。


ただ、農薬というのは分子構造がほんのわずか異なるだけで、毒性その他が全く違ってくるらしいです。


戦後しばらくの間、農業生産現場で使用されてきた殺虫剤パラチオンは、優れた殺虫効果を持っていましたが、その動物や人への毒性の強さから1971年に使用が禁止されました。


私は生まれてもいないので、もちろん使ったことはありません。


日本発の有機リン系殺虫剤「スミチオン」はパラチオンと非常に類似した分子構造を持ち、高い殺虫効果を維持したまま、毒性を著しく低くすることに成功した商品で、40年以上現役です。毒性の強さはパラチオンの100分の1と言われています。


有機化学の用語に「誘導体」なるものがあります。


デジタル大辞泉によると、

ひとつの化合物の分子構造の小部分が変化してできた化合物。基本構造はそのままで、一部が他の原子団と置き換わったもの


わかるようなわからないような・・・


なにしろ、高校時代、基礎解析と化学のテストでダブル一桁得点を獲得した理系音痴なので・・・


ともかく、母体をちょっといじくることにより、類似したいろんな化合物ができる、それを誘導体と呼ぶらしいです。


スミチオンはパラチオンの誘導体ですが、その毒性は全く違います。


「似ていて非なるもの」が世の中にはたくさんあるようです。


ちなみに飛躍的に安全になったスミチオンでさえ、その選択性の低さ(広範囲の虫に効いてしまう)ゆえか、長野県の果樹現場ではほとんど使われていません。


選択性については(多分)次回。

posted by 農天気 at 21:34| Comment(0) | よもやま話

2019年06月22日

RACコード

農薬には「系統」というものがあります。


作用機構や分子構造の違いによって分類されています。


殺虫剤なら、有名どころでカーバメート系・有機リン系・ピレストロイド系・ネオニコチノイド系など。

殺菌剤なら、黒星病耐性菌の出現で一気に「使えない薬剤」にリストアップされてしまったDMI剤やQol剤。またテトラサイクリン抗生物質・SDHI剤など。


耐性菌・抵抗性害虫の発生を防ぐために、薬剤はローテーション散布(複数の異なる薬を順番に使用する)が基本ですが、その際に系統名が利用されます。


「この前、有機リンを使ったから今回は合ピレ(合成ピレストロイド)でいこう」のように。


ただ、私たちは系統名で言われても、その薬がどこにあてはまるのかよくわからない。

農薬の容器に書いてあればよいのですが、なぜかほとんど無い


すっきりしないので一覧表を探してみたら、簡単に見つかりました。

それがRACコード表


Resistance Action Committee の略です。


殺菌剤の場合はFungicideResistance Action Committee でFRAC.


殺虫剤はInsecticideResistance Action Committee でIRAC


あまり使われませんが除草剤はHerbicideResistance Action Committee でHRAC


P1090929.JPG


最近になってようやく農薬ラベルにもこのコードを記載するメーカーも出てきたようですが、それにしても動きが鈍い・・


由らしむべし 知らしむべからず」と言いますか、


「農家に理屈教えてもしかたない、俺らの言うとおりにやってりゃいいんだ」とでも考えているのでしょうか。


どうも農協をはじめとする農業機関は農家をみくびっているように感じることがあります。


一方で農家は自分で考えることを面倒くさがって、ただ農協の言うがままに肥料を撒き、農薬を撒いているケースも多いです。


先日も、農薬店で、次に散布する農薬の種類について相談していたら、そこに居合わせたベテラン農家曰く


「いろいろ考えてんだなぁ。俺はわけもわかんねえで言われるまま撒いてるだけだ。」


こういう意識がとくに高齢兼業農家に多い。


ある人の考察では(農民作家の山下惣一さんだったと思いますが)、日本の農業はコメ作りを基盤としていて、コメ作りというのは用水を皆で管理して共同で利用しているために、他の人と違うことがやりづらいし、そういう人は敬遠される、だから自分で考える習慣ができなかった、とのことです。


だいぶ(また)脱線してしまいました。


前回防除は、農協や農薬店の作った防除暦では、殺虫剤はアルバリンを使用することになっていましたが、アルバリンはネオニコチノイドなので、うちではディアナというクスリをチョイスしたのですが、あとで見てみると・・・


ディアナのコードは「5」でスピノシン系

ネオニコは「4Aなので、コードは違うのですが、「作用機構」を見てみると、

ネオニコが「ニコチン性アセチルコリン受容体競合的モジュレーター → 神経作用」。

スピノシンが「ニコチン性アセチルコリン受容体アロステリックモジュレーター → 神経作用」。


ほとんど同じやん!!

この「競合的」と「アロステリック」の違いが大きいのか?


今度確認しなくては!!


posted by 農天気 at 18:36| Comment(0) | よもやま話